大学発スタートアップが「触覚テクノロジー」の開発に成功

02-08-2023
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Naoko Yamamoto

Japanese writer and  publicist based in Eindhoven, The Netherlands


HaptonTech

VRで握手した触感をリアルに再現、大学発スタートアップが「触覚テクノロジー」の開発に成功

Haptontech

VR(仮想現実)で出会った人と握手をしたら、実際に相手の手の感触を得ることができる――そんな世界が現実になりつつあります。オランダ南部ブラバント州にあるアイントホーフェン工科大学発のスタートアップ企業「HaptonTech(ハプトンテック)」は、これまでにない触覚テクノロジーの開発により、私たちのコミュニケーションに新たな世界を切り開いています。

ユーザーに触覚体験を加える「ハプティック技術」

ハプトンテックが専門としているのは、「ハプティック技術(触覚技術)」と呼ばれるもので、ユーザーに力、振動、または運動を加えることで、触覚体験を作り出すことのできる技術です。

「人は、コンピュータのマウスや机の表面など、それら物体をすべて『ハプティック(触覚)』によって認識します。今、それらの表面は静的で、不変的なものですが、私たちはそれをハプティック技術によって変化させたいと考えました。表面がスムーズからマットになったり、触った時にダイナミックな体感の変化をもたらしたいのです」

ハプトンテックの共同創設者である劉丹青・准教授は語ります。

ポートレート
ハプトンテックの共同創設者、劉丹青・准教授(左)とディルク・J・ブルール名誉教授(右)©Naoko Yamamoto

このダイナミックな変化をもたらすために、同社が独自で開発したのが、「平面からバンプ(突起)をつくる」技術です。「ハプティック技術は他社もさまざまな方法で取り組んでいますが、私たちのテクノロジーは表面を変形させるという観点において唯一無二のものです」(劉氏)

物体の表面を変形させて、ユーザーに感じさせるには?

同社が開発する「平面からバンプをつくる」技術は、薄い透明フィルム上に電気フィールドを作り、分子の向きをある方向に動かして拡張させることでフィルム上に隆起を作るというものです。

計器
フィルムの表面に凸を作るための装置。左のモニターで隆起の状況を観測できる。©Naoko Yamamoto

他社の技術ではフィルムに色がついていたり、電極が隠れなかったりしますが、ハプトンテックが開発した導電性のフィルムは、透明で薄く、ガラスやロボットの指の表面など、さまざまな基板の上にコーティングできるのが特徴です。同社はこの特許と材料を持つのを強みとしています。

もう1人の共同創設者、ディルク・J・ブルール名誉教授は説明します。

「私たちの技術は、過去40年間の液晶研究の蓄積に基づいています。現在使われている分子マテリアルはすでに1985年に発見されていますが、私たちはそこに加える特別な分子を開発して、光にさらされると変形するフィルムを作りました。ハプトンテックはこれをさらに発展させ、光ではなく電気でフィルムを変形させています」

VRから火星探査機の掃除まで

さまざまな基板にコーティングが可能で、電気によって表面を変形させる同社のテクノロジーは、多様な分野に応用できます。身体の一部を触ると遠くにいる他の人がそれを感じられるというような、VRなどでの双方向の触覚コミュニケーションはその応用例のひとつです。

「このフィルムを使ってロボットの指に指紋を持たせたり、材料に水分を加えて、ロボットの指を発汗させることも可能です。VRでの体験もよりリアルにできますね」(ブルール氏)

同フィルムを液晶ディスプレイの表面に施せば、タブレットやスマホの表面を変形させることも可能になります。こうすれば、画面を見なくても触覚で情報を得られるようになります。

「この技術を自動車内のスクリーンに応用し、必要なボタンを必要なときにポップアップさせることができれば、ドライバーは道路に目を向けながらスクリーンを操作できるようになります」(ブルール氏)

Haptics and Touch Screens
ハプティクス技術は、タブレットのディスプレイや双方向の触覚コミュニケーションに応用できる。(資料:HaptonTech)

ほかにも、表面に急な変化を加えれば、太陽光パネルの表面についた砂や埃を自動的に振り払うことなども可能になります。将来的に火星探査機の太陽光パネルへの応用も考えられており、実際にNASA(アメリカ航空宇宙局)からのアプローチも受けたといいます。

可能性を一緒に探る

まだ発展途上にあるハプティック技術は、多くの可能性を秘めています。同社の技術を使う最適なプロダクトを探るため、ハプトンテックは現在、多くのエンドユーザーと接触したいと考えています。

ブルール氏によれば、同社が目指すのはパートナーと一緒に商品開発をすること。そして、将来的には、製造にも事業を拡大することです。

同氏は、「私たちの技術からインスピレーションを受けてアイデアが浮かべば、ぜひご連絡ください」と呼びかけています。

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TU (1)
ハプトンテックが生まれたアイントホーフェン工科大学(TU/e)©Naoko Yamamoto