Onera Health:日本人の3人に1人が不眠症。自宅でできる病院レベルの睡眠検査で、不眠治療をアクセス可能に

07-10-2024
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Naoko Yamamoto

Japanese writer and  publicist based in Eindhoven, The Netherlands


「夜中に何度も目が覚める」「なかなか眠りにつけない」「眠りが浅く、寝起きが悪い」――厚生労働省によると、日本では成人の30~40%が不眠症状を抱えています。世界レベルでも5人1人が不眠症に悩んでいますが、そのうち医師の診断を受け、治療を受けている人はわずか20%に過ぎません。不眠治療のためには、入院を伴う検査が必要となり、その手間とコストが大きな障壁となっているのです。

この状況を改善しようと立ち上げられたのが、オランダ・ブラバント州を拠点とする「Onera Health(オネラ・ヘルス)」です。どのような事業を展開しているのか、創設者兼CEOのRuben de Francisco(ルーベン・デ・フランシスコ)氏に話を聞きました。

過去50年間変わらない睡眠検査

不眠症状で医師に診断してもらう場合、現在は入院を伴う睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)をする必要があります。この検査は1晩、さまざまなワイヤーを身体に身に着けて寝ることで、脳波や眼球運動、心電図、筋電図、呼吸曲線、いびき、動脈血酸素飽和度などを測定する検査です。

これにより、睡眠時無呼吸症候群(眠り出すと呼吸が頻繁に止まってしまう病気)や周期性四肢運動障害(睡眠中に足に周期的な動きが生じる障害)など、睡眠障害の原因が診断できます。

自宅ではなく病院のベッドに横たわり、頭から足までさまざまな機器やワイヤを身に着けて寝るのは、患者にとって非常に不快な経験です。医師や看護師にとっても煩雑な作業となるほか、病院のベッドを使うことになり、医療コストもかさみます。

Ruben de Francisco, CEO, Onera HQ Eindhoven, NLOnera Healthの創設者兼CEO、Ruben de Francisco氏。オランダ・アイントホーフェン市の本社にて(Photo: Onera Health)

デ・フランシスコ氏は、オネラ・ヘルスを立ち上げたきっかけについて説明しました。

「私は前職でエンジニアとして医師と直接かかわる機会が多かったのですが、あちこちでこの検査のあり方を変える必要があるという声を聞きました。50年前のテクノロジーを未だに使っているなんて、信じられません。私は現在のテクノロジーを使って、PSG検査を自宅で可能にできると考えました」

睡眠障害を放っておけば、より深刻な病気に繋がる可能性が高く、それによりさらに医療関係者への負担が増し、医療費もかさむことが考えられます。「PSG検査をもっと手の届くものにして、適切な治療をみんなが受けられるようになれば、こうした負担は大幅に軽減されます」(デ・フランシスコ氏)

データを医師に提供する「サービスとしてのPSGテスト」

オネラ・ヘルスの顧客は主に病院や専門クリニックで、同社は独自のデバイス「Onera STS」により、医師や看護師にPSGテストのデータサービスを提供しています。

「患者は病院で登録されると、病院から検査キットが入ったボックスを受け取ります。検査キットの使い方はいたって簡単で、自宅でイラスト入りの説明を見ながら胸や額、腹部、足に直接パッチを貼りつけ、パッチ上にセンサーを装着するだけです。ワイヤレスなので、従来の検査とは比べものにならないほど快適です。検査を待つウェイティングリストもなければ、入院のために仕事を休む必要もありません」(デ・フランシスコ氏)

手軽さだけでなく同社が誇るのは、その正確で総合的なデータにあります。同社が開発した「バイオメディカル・ラボ・オン・チップ」というチップで、脳波や筋電図、心電図、呼吸流量、酸素飽和度、体位など睡眠テストに必要なすべてのシグナルを測定・処理することができます。データは自動的にクラウド上の同社のプラットフォームに送信され、分析された後、医師にレポートが送られるという仕組みです。

Onera STS, full system, sleepingOnera Healthの睡眠テストシステム「STS」は、自宅にいながら病院レベルの測定を可能にする(Photo: Onera Health)

「今は時計やリングなど、身に着けて睡眠状態を計測するガジェットがたくさん出ていますが、私たちはそういうローエンド製品とは競合しません。それらは各自の睡眠に対する意識を高めるのに役立ちますが、ほとんどの場合、診断目的で使用できる医療機器ではなく、治療に役立てられるレベルではないからです。診断に使えるレベルの生体データをこれだけ総合的に提供できるのは、弊社が世界ではじめてです」(デ・フランシスコ氏)

病院で行われていた従来のPSGテストの手間が省けることで、医師は患者の診断や治療に注力することができるようになります。デ・フランシスコ氏によれば、PSGテストに基づく正しい診断さえ得られれば、今や睡眠障害に対する治療法は非常に豊富だといいます。

「近年はさまざまな医薬品が開発され、市場投入されています。また、CPAP(マスクを付けて、加圧した空気を鼻から送り込むことで睡眠中の無呼吸を防ぐ療法)やマウスピースを使った療法、インプラントで舌下神経を刺激して、気道が塞がらないようにするような治療もあります。ただ、その治療法が本当に問題を解決したのか、それをチェックするにもPSGテストが必要ですよね?大切なのは、総合的で正確なテストを経て、適切な治療を受けること。ここに到達するまでのアクセスを容易にすることです」

米国とドイツにも拠点、アジア市場も視野

同社はオランダの研究機関「ホルストセンター」とベルギーの研究所「Imec(アイメック)」からのスピンオフで、2017年の設立以来、急成長しています。18年にはアメリカやドイツにも事業拠点を拡大しました。

21年には欧州で基準を満たした医療機器メーカーに与えられる「CEマーク」認証を獲得し、EU27カ国市場へのアクセスを取得。22年にはFDA(アメリカ食品医薬品局)の認証を経て、同国での販売活動も始めました。現在は市場拡大のフェーズにあり、このためのスタートアップ投資資金「シリーズC」も獲得しています。

Ruben de Francisco, Pieter Ermers, Heidi Lee, Iulia Dobai, roof Onera HQ
左からRuben de Francisco氏(創設者兼CEO)、Pieter Ermers氏(創設者兼品質・規制担当副社長), Heidi Lee氏(CFO)、Lulia Dobai氏 (CTO) 。本社の屋上にて(Photo: Onera Health)

今後の展望についてデ・フランシスコ氏は、「さらに広範囲のマーケットに事業を拡大する計画です。アジア市場では特に日本市場に注目しています。日本は人口の高齢化が進む一方、医療従事者が足りないので、ぜひ私たちのソリューションを届けたいと思っています。日本での市場開拓に向けたパートナー企業や戦略投資家、サプライヤーなどを求めています」と述べました。

「不眠症は国民病」と言われるほど、多くの人が不眠に悩まされている日本では、同社のサービスが生活の質や医療システムの改善に大きく寄与すると期待されます。同社のビジョンに賛同し、ご協力いただける皆さま、ぜひ下記連絡先までご連絡ください。

連絡先:Onera Health

info@onerahealth.com

https://www.onerahealth.com/