AIKON Health:患者数はガン以上、「心不全パンデミック」を防ぐウェアラブルデバイスが登場、再入院を25%削減

07-10-2024
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Naoko Yamamoto

Japanese writer and  publicist based in Eindhoven, The Netherlands



心不全患者のための、AIKON Healthのウェアラブルデバイス。高齢化社会の医療負担を軽減するゲームチェンジャーとなる見通し。(写真:AIKON Health)


人口の老齢化に伴い、欧米でも日本でも心不全罹患者数の増加が深刻化しています。心不全は心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなる状態のこと。入退院を繰り返すケースが多く、患者にとっても医療関係者にとっても負担が重く、医療費もかさみます。

こうした状況を改善しようと、オランダ発のスタートアップ企業「AIKON Health(アイコン・ヘルス)」は、肌に直接身に着けて、心不全と関連するバイタルデータを測定するデバイスを開発しました。退院後、自宅で過ごす患者のデータを遠隔で管理し、不調を早めにキャッチして対処することで、再入院を25%削減できる見通しです。

心不全患者の半数が再入院

日本における心不全の推定罹患者数は現在、120万人に上ります(日本心臓財団より)。ガンの罹患者数は約100万人なので、かなり多くの人がこの症状を抱えていることが分かります。心臓の筋肉(心筋)の衰えや、高血圧、弁膜症の増加などがその原因となっており、人口の高齢化に伴ってますますその数は増えています。

入院後は薬物治療で自宅療養しますが、容体が悪化して何度も入院を繰り返すケースが多く、日本では病院のベッドが足りなくなる事態も発生。医療機関のひっ迫で助かる命も助からない「心不全パンデミック」も危惧されているほどです。


心不全の症状には、息切れ、頻拍または不規則な心拍、吐き気と食欲不振、疲労と倦怠感、体重増加、錯乱や思考障害などがある。(画像:AIKON Health)

アメリカとEU諸国でも毎年700万人の新規罹患者が生まれており、医療関係者の負担が増加し、このための医療費も再入院だけで年間250億ユーロ(約4兆円)に上っています。欧米では多くの場合、患者は10日間入院した後、4-6カ月の間、自宅で薬物療養をしながら2週間毎に専門クリニックに通い、その薬物療法が適切であるかどうかをチェックします。しかし、一度退院した人のうち半数以上が再入院しているといいます。

日本心臓財団によれば、再入院の要因としては「塩分・水分制限の不徹底」「呼吸器感染症などの感染」「治療薬服用の不徹底」が上位に上がっています。そのため、早めに不調をキャッチして食生活や薬の服用を見直すことで、多くの再入院が防げるのです。

ウェアラブルで退院後も自宅でデータ採取

アイコン・ヘルスのウェアラブルデバイスは、患者が直接胸と腕にパッチを付けることで、心不全のサインとなる肺の中の水分量や心拍出量(心臓が血液を送り出す量)を計測することができます。ほかにも心電図や心拍変動、呼吸数、アクチグラフィー(長期間の体動)などを同時に計測することが可能です。

こうしたバイタルデータの検出を可能にしているのは、同社が開発したワイヤレスセンサーの技術と、TNO(オランダ応用科学研究機構)ホルストセンターが長年研究してきたプリンテッド&フレキシブルエレクトロニクス(曲げられる基板に印刷できる電子回路の技術)です。これにより、伸縮性と耐水性のある超薄型のウェアラブルデバイスが生まれました。


AIKON Healthのウェアラブル・デバイスは、ワイヤレス・センサー技術と印刷されたフレキシブル・エレクトロニクス技術に基づいている。(写真:AIKON Health)

競合他社はペースト状のウェットなゲル電極を使っていますが、アイコン・ヘルスはドライ電極技術を使っているため、よりクオリティの高い測定ができるほか、患者は約14日間このパッチを貼り続けることができ、モニタリングのプロセスがより快適になります。

装着もいたって簡単で、患者は1度説明を受ければ、自分でパッチを張り替えることができます。使い終わったデバイスの電子ユニットは、最終的に同社が医療機関から回収し、適切な処理を施した上で再利用。サステイナブルな観点も考慮しています。

ビジネスモデルは医療データサービス

アイコン・ヘルスが想定するビジネスモデルは、デバイスを販売するのではなく、医療機関にデータを提供するというものです。具体的には、デバイスを医療機関に提供し、心不全で入院した患者は、退院時にそのデバイスを受け取り、自宅でそれを身に着けながら4-6カ月療養します。

そこで検出された患者のデータは、ブルートゥースで自宅に設置された機器に送られ、そこから医療データのサービスソリューション会社に送信されます。その後は機械学習やAIエンジンを使ってデータを分析した上で、医師や看護師に情報を送るという構想です。

アイコン・ヘルスの創業者兼CEOのティル・カナガサバパティ氏は、次のように説明します。「データ・アズ・ア・サービス(サービスとしてのデータ)です。入院費用が高額であることを考えると、はるかに低コストで患者にとってより良いケアを提供できます。心不全の兆候を早めにキャッチすることで、早めの対処を可能にし、再入院を防ぐことを目指しています」


左から) Thiru Kanagasabapathi (CEO), Sofia Hidalgo (Head of Clinical Science), Siam Gnana (CTO) (写真:AIKON Health)

3年後の市場投入を目指して

アイコン・ヘルスは現在、同デバイスのプロトタイプの製作に取り組んでいます。年内には臨床試験も行われ、26年には改良版をリリースする予定。その後は大規模な臨床試験と当局の承認を経て、27年には市場投入する見通しです。

現在の課題についてカナガサバパティ氏は、「パッチをさらに長い期間貼り続けられるようにすること。そのためには、肌がかぶれない素材の開発が必須です。また、より高品質のドライ電極で、より正確なデータを得ることも重要です。私たちは一緒にこうした素材を共同開発できるパートナーを探しています」と述べています。

自宅にいながらデバイスを身に着けるだけでデータが病院に送られれば、患者のみならず、医師や看護師の負担も大幅に軽減されるほか、再入院が減少すれば、医療費も大きく削減されます。高齢化が進む日本社会では、こうしたデバイスがパーソナライズされたヘルスケアのための重要なソリューションとなるのではないでしょうか。

連絡先:AIKON Health 

AIKON Health
thiru.kanagasabapathi@aikonhealth.com
https://www.aikonhealth.com/