Japanese writer and publicist based in Eindhoven, The Netherlands
カスタマイズされたTracXonのロールツーロール印刷ライン(写真:TracXon)
TracXon(トラクソン)は2022年1月、オランダ南部のブラバント州を拠点とする研究機関「TNO Holst Centre(ホルストセンター)」のスピンオフとして立ち上げられました。同センターで研究・開発された「ハイブリッド・プリンテッド・エレクトロニクス(HPE)」のプロトタイプ製品を量産するのが目的です。
トラクソンのCEO、アショク・スリダー氏
トラクソンが製造する「ハイブリッド・プリンテッド・エレクトロニクス(HPE)」は、フレキシブル・フィルムの上に電気回路やセンサなどを印刷して作られる電子デバイスと、半導体やほかの材料で作られたチップやLEDといった部品を組み合わせたものです。
すでに多くの企業がプリンテッド・エレクトロニクスの技術を持っていますが、プリンティングとアセンブリーの技術を両方必要とする、複雑なハイブリッド製品を量産できる企業は、世界でも同社以外にありません。
「大量生産に踏み切るのはトラクソンがはじめてです。私たちは、これまでになかった産業を作り出しているのです」と、同社CEOのAshok Sridhar(アショク・スリダー)氏は説明します。
ドイツのMinktec社のために製作されたウェアラブルセンサ(写真:TracXon)
軽量で、フレキシブルな形状を可能にするHPEは、さまざまな製品への応用が可能です。例えば、センサで情報を読み取り、コミュニケーションできるIoTデバイス。肌に直接身に着けたり、衣服に組み込んだりできる「ウェアラブルデバイス」で、体温や心拍数などを計測するのに使えます。
同様の技術は、ロジスティクスでも応用可能です。例えば、製薬会社がワクチンを輸送する際、ロケーションや気温、湿度などをモニターするタグを作れば、遠隔監視しながら輸送条件を一定に保つことができます。また、将来的にオートモーティブで自動運転が普及すれば、車同士がセンサで状況を検出し、通信するためのデバイスにも応用されます。
サイネージ用RGB LEDフォイル(写真:TracXon)
IoT以外では、照明やデジタルサイネージ(看板や標識)への応用も可能です。非常に小さな「マイクロLED」をフィルムに組み込めば、車のサンルーフを「星空」のように輝かせることもできます。また、大型LEDディスプレイを軽量でフレキシブルなHPEで作れば、柱に巻き付けたりすることが可能になります。これはデジタル広告の世界に新たな道を切り開くでしょう。
トラクソンが専門とするHPEは、軽量でフレキシブルなだけでなく、サステイナブルでもあります。
従来の電気回路は基板をすべて銅でカバーして、パターンを得るまで化学薬品で銅を取り除いていくプロセス。大量の水を使うほか、銅の90%が取り除かれることもあり、無駄が多いものでした。
一方、HPEはフィルムに必要なものを添加するため、無駄がなく、水もほとんど使いません。また、基板となるフィルムにはバイオベースのポリマーも使われており、製品が寿命を迎えた後は別の製品にリサイクルすることができます。従来の基板が最終的に焼却されていたことを考えると、この点でも非常にサステイナブルです。
トラクソンのオフィスは、オランダ南部のハイテク集積地であるアイントホーフェン市にあります。23年2月には、日本のメーカーからカスタマイズされたロールツーロール(ロール状に巻かれたフレキシブル基板を連続で印刷し、再びロール状に巻きとる)印刷機も導入し、すでにパイロット生産を開始しています。
今年9月にはヨーロッパの顧客向けに製品1万個を製造、10月には生産ラインをもう1本増やし、年末までに10万個体制にする計画です。また、25年までにはプリンティングライン2本とアセンブリーライン2本を1日16時間稼働させる予定で、年産数百万個のキャパシティを見込んでいます。
「私たちは、非常に複雑なハイブリッド・フレキシブル・エレクトロニクスの量産を実現する世界初の企業になるだろう」とアショク・スリダー氏は述べている。(写真:TracXon)
「TNOホルストセンターは、お客様のために技術やプロトタイプを研究・開発していますが、私たちはその次の段階であるフルスケールの製造を行います。お客様はアイントホーフェンでワンストップの完全なソリューションを得ることができるのです。そして、最終的に生産ボリュームが大きくなれば、私たちはお客様が現地で工場を設立するのをライセンス事業としてお手伝いすることができます」(スリダー氏)。
TNOホルストセンターは、長年日本の顧客との信頼関係を築いてきました。その信頼を元に、トラクソンは日本の顧客を製造面で支えることを通じて、コラボレーションをさらに強化したいと考えています。
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Contact: ashok.sridhar@tracxon.tech